他のことは知らない
他のことはどうでもいい
傍にさえいてくれるのなら






夢を見た。
よくある悪夢の定番。
真っ暗闇を一人でいる夢。
呼んでも返事を返す人々はいなくて、自分でも誰の名前を呼んだかさえ分からない。
声が役目を果たす前に、闇へと吸い込まれていく。

何処にいるのか?
皆は如何したのか?

何も分からなくて、言い知れぬ不安が胸を締め付ける。
寒くもないのに自分の肩を抱き締めて、足に力が入らず、膝をついた。


漏れたのは、一番大事な大切な人の名。


会いたくて、今すぐに会いたくて。
それなのに動くことも出来ず、知らずと背が丸くなる。
冷や汗も浮かばない額が冷たい地面に当たった。
小刻みに震える体を抑えようと手に力を加えても、指が皮膚に食い込むだけで震えは止まらない。
闇に飲まれる。
体が闇に同化していくように黒くなっていく。
痛みなんて構わずに、更に力を加える手に暖かな手が重なった。
その手に驚き、顔を上げようとするより先に、柔らかな光を放つその腕に優しく包まれる。
今まで張り詰めていたものが一気に和らいで、肩に食い込んだ指や手から力が抜けた。
自分と同じくらいのその腕は暖かく、そして優しい。
顔を見なくても分かる。
一番大事で大切な、それでいて誰よりも愛しい人。

会いたかった。

目頭が熱くなり、とめどなく涙が零れ落ちる。
嗚咽が漏れ始め、肩を抱いていた手は縋り付くように相手の背中にまわって、服を掴んでいた。
恥なんて捨てて、声を出して泣いた。
さっきまでのが嘘のように、辺りに声が響く。
服に皺がいくつも出来、相手の服に涙の染みが点々と数を増やしていく。
それでも、その人は嫌がる素振りなど見せないで静かに抱き締めていてくれる。



どれくらい時間がたっただろう。
泣き疲れた。
もう涙が出ないんじゃないかと思うくらい泣いた。
ここにきて、やっと顔を上げた。
目が合うと、その人は優しく微笑み、光でおぼろげだった輪郭が更に淡くなっていく。
顔や腕や足や体の線がぼやけてきた。

待って!!行かないでっ!

声に出したはずなのに、また声になるに消えてしまう。
掴んだ服をしっかりと握り、薄くなっていく体を折れるかと思うくらい抱き締める。
それでも段々と感触がなくなり、光は粒子へと変わった。
言葉にならない声。
闇に飲まれたのかどうかさえ分からない。
さっきまでいたのに。
自分の手を見つめても、なにもない。
それどころか、黒く闇に染まっていく。
また不安が波の様に押し寄せる。
今度は助けてくれる『手』はもうない。






最初に目に入ったのは、見慣れ始めた白い天井。
そして、心配そうな顔のお姉ちゃん。
状況がいまいち飲み込めないでいる僕の頬にお姉ちゃんが手を伸ばしてくる。
「……恐い夢でも見たの?」
暖かい手が頬に触れ、目尻から流れる涙を撫でる。
その時になって初めて自分が泣いてることに気付いた。
(夢……?夢…だった……)
そう、夢。
だって現にお姉ちゃんは目の前にいる。
「ユウ……?」
涙を拭こうとしない僕を、お姉ちゃんは不思議に思ったのか、眉を寄せている。
頬に触れる、この暖かい手をもっと感じたくて、目を閉じて頬を摺り寄せた。
「そんなに恐かったの?夢」
恐かった。
誰よりも何よりも、お姉ちゃんを失うことが恐かった。
思わず抱き寄せた体は、自分とたいして変わらなくて。
夢のように消えないのは分かっているけれど……
「お姉ちゃん……」

消えないで。
消さないで。
一人は嫌だ。
二人でいさせて。

「……一緒に寝よっか?」
顔が見えないけど、お姉ちゃんの優しさが心に染みて広がる。
なんで、僕の望んでることが分かるのかな。
「久し振りに一緒に寝よ。そしたら恐い夢も、もう見ないって。ね?」
「…………うん」
大人用のベッドは僕たち子供には広くて、二人でも狭くない。
それでも僕たちは寄り添い、抱き合いながら眠りについた。
なかなか眠れないでいた僕に、お姉ちゃんは「傍にいるよ」と言って微笑んだ。
その言葉と笑顔のおかげで、僕の心は静かに落ち着いて、眠ることが出来た。
もう恐い夢は見なかった。






他に何もいらない
お姉ちゃんさえいてくれれば

この腕の中に……
籠の鳥のように、閉じ込めて
逃げれないように、鍵をかけて


傍にいるためなら、なんだってするよ

だから……

お願いだから、一人にしないで……
僕を置いていかないで……
お姉ちゃんしかいないんだから……

僕には

お姉ちゃんしか……









【END】







とりあえずごめんなさい(速攻で謝るな)
かなり待たせてしまった挙句、出来たのがコレ。
ユウアイはムズイです〜でも好きv(オイ)
何個か考えたんですけどね。周りからアイを守るオールキャラギャグとか。
でも、リクエストはユウアイですので、二人だけでv
設定としては、ジェーンには乗ってます。
あと、二人は同室(当たり前か)で、でもベッドは別々(チョビは?)です。
まぁ、そんなところ(笑)

風宮リオさん。700HITありがとうございました!


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